Webex Calling 無音事象の総合解析
対象: 20260415_UC8300D.txt (debug ccsip messages / debug ccsip media / show voip rtp connections) + CAP2.pcap
結論: 原因は Webex から LGW への戻り RTP (UDP) 不達 です。
LGW から Webex へは RTP を送出できていますが、逆方向が到達せず、受信タイムアウトで切断しています。
LGW から Webex へは RTP を送出できていますが、逆方向が到達せず、受信タイムアウトで切断しています。
1. 解析対象と観測条件
- 通話経路: PSTN/ISDN 側端末 ↔ LGW (UC8300D) ↔ Webex Calling
- LGW ログ: SIP シグナリング + メディア処理 + RTP接続テーブル
- キャプチャ:
CAP2.pcap(LGW 側採取)
2. 20260415_UC8300D.txt の主要事実
2.1 通話は張れており RTP セッション情報も生成される
show voip rtp connections ではアクティブ接続が 1 本表示され、以下の対向が見えています。
No. CallId dstCallId LocalRTP RmtRTP LocalIP RemoteIP 1 176965 176964 16634 24944 192.168.120.31 144.196.102.126
2.2 しかし通話終端時の RTP 受信統計が 0
Reason: Q.850;cause=102 P-RTP-Stat: PS=1511,OS=317310,PR=0,OR=0,PL=0,JI=1,LA=-1,DU=30
PS: 送信パケット数は増加PR=0: 受信パケットは 0cause=102: RTP受信タイマ満了での切断と整合
3. CAP2.pcap のフロー解析結果
3.1 方向別 RTP パケット数
| 方向 | 5タプル | パケット数 | 判定 |
|---|---|---|---|
| LGW → Webex | 192.168.120.31:16634 → 144.196.102.126:24944 | 1529 | 送信できている |
| Webex → LGW | 144.196.102.126:24944 → 192.168.120.31:16634 | 0 | 戻りRTPが不達 |
3.2 CAP2 のプロトコル分布
- UDP: 1563 パケット
- TCP: 382 パケット
- OSPF (proto 89): 12 パケット
UDP の大半が 192.168.120.31:16634 → 144.196.102.126:24944 の片方向フローで、逆方向が存在しません。
4. CAP2.pcap における STUN 処理の実体
4.1 検出された STUN メッセージ
- STUN 総数: 36 パケット
- メッセージ種別: すべて
0x0011(Binding Indication) - Method bits:
0x0001(Binding) - Message Length: すべて 108 byte
4.2 STUN の方向と本数
| 方向 | 5タプル | 本数 |
|---|---|---|
| LGW → Webex | 192.168.120.31:16634 → 144.196.102.126:24944 | 18 |
| LGW → Webex | 192.168.120.31:16635 → 144.196.102.126:24945 | 18 |
4.3 この STUN が意味すること
- 本キャプチャの STUN は、RTPポート対に対する Binding Indication ベースの keepalive 動作です。
- 主目的は NAT/FW のピンホール維持と、ICE 系の到達性維持です。
- Indication は応答必須ではないため、返信が見えないこと自体は STUN 異常とは断定できません。
重要: STUN keepalive は正常に送出されていますが、Webex → LGW の戻りRTPは 0 のままです。
したがって今回の無音事象は「STUN 不動作」ではなく、戻りRTP経路の遮断/不達が本体です。
したがって今回の無音事象は「STUN 不動作」ではなく、戻りRTP経路の遮断/不達が本体です。
5. 相関分析 (ログ × pcap)
| 観測 | txtログ | pcap | 解釈 |
|---|---|---|---|
| 通話確立 | RTP接続エントリあり | RTP送信あり | シグナリング/送出開始は成立 |
| 無音 | PR=0 | 戻りRTP 0 | 受信方向のみ欠落 |
| 切断 | cause=102 | 片方向のまま | 受信タイマ満了で自然切断 |
技術結論: 問題の本体は SRTP 交渉そのものではなく、Webex → LGW の戻り UDP/RTP 経路です。
境界 FW/NAT の許可方向・タイムアウト・対称NAT挙動を最優先で見直してください。
境界 FW/NAT の許可方向・タイムアウト・対称NAT挙動を最優先で見直してください。
6. 追試結果 (2026-04-20: CAP4 + debug)
FW に RTP 許可ルール追加後の再試験でも片通話は継続し、LGW 側で 30 秒切断 (cause=102) が再現しました。
6.1 debug 側の結果
show voip rtp connectionsではセッション自体は成立 (16700 -> 31582 @ 144.196.102.32)- 通話終端統計は
P-RTP-Stat: PR=0のまま - 切断理由は再び
Reason: Q.850;cause=102
6.2 CAP4 側の結果
- LGW 送信 RTP は大量に存在
192.168.120.31:16698 -> 144.196.102.103:30972(1524 packets)192.168.120.31:16700 -> 144.196.102.32:31582(1521 packets)
- LGW 宛ての戻り RTP/UDP は観測されず (DNS 応答のみ)
- ICMP は
Type 3 Code 3 (Port Unreachable)が 24 件 - ICMP 送信元は Webex 側メディア IP (
144.196.102.103,144.196.102.32)
解釈: ICMP Destination Unreachable は「主原因」ではなく、LGW が送信した RTP 宛先ポートが相手側で閉じていることを示す結果です。
根因は引き続き Webex -> LGW の戻りRTP不達 であり、受信側経路が成立しないため 30 秒でタイムアウトします。
根因は引き続き Webex -> LGW の戻りRTP不達 であり、受信側経路が成立しないため 30 秒でタイムアウトします。
6.3 CAP3 と CAP4 の差分比較
| 観点 | CAP3 | CAP4 | 評価 |
|---|---|---|---|
| 片通話の有無 | 継続 | 継続 | 未改善 |
| 切断要因 | Q.850 cause=102 (30秒前後) |
Q.850 cause=102 (30秒前後) |
未改善 |
| RTP受信統計 | PR=0 |
PR=0 |
未改善 |
| LGW → Webex RTP | 送信あり | 送信あり | 正常継続 |
| Webex → LGW RTP | 観測なし | 観測なし | 未改善 |
| ICMP Destination Unreachable | Type 3 Code 3 を観測 | Type 3 Code 3 を多数観測 | 副次症状が明確化 |
| 総合判定 | 戻りRTP不達 | 戻りRTP不達 | 根因は同一 |
この比較から、FWルール追加後もメディア受信方向の実効性が得られていないことが分かります。ICMP は「戻りRTPが来ない」事象の代替シグナルであり、根因の置き換えではありません。
7. 推奨対策
7.1 ファイアウォール許可
- 宛先: LGW メディアIP (192.168.120.31)
- プロトコル: UDP
- 宛先ポート: 16384-32766
- 送信元: Webex Calling メディアレンジ (運用中リージョン全体)
7.2 NAT/セッション維持の確認
- UDP セッションタイムアウトが過小でないこと (少なくとも 60 秒以上を推奨)
- SIP ALG の不適切な書き換え無効化
- ポリシーが片方向のみ許可になっていないこと
- ICMP Unreachable を生成した装置/ポリシーの確認 (上流FW/キャリア境界を含む)
7.3 再試験時の確認コマンド
show voip rtp connections show call active voice compact (debug ccsip messages / media を同時採取)
成功判定は次の 3 点です。
P-RTP-StatのPR > 0Reason: Q.850;cause=102が出ない- pcap で Webex → LGW の RTP が継続到達する
8. 補足
本解析では、LGW から送信された RTP が Webex 側へ到達している一方、逆方向のみ欠落しているため、
音声品質やコーデック不一致よりも、ネットワーク境界での受信方向制御を優先して対処するのが最短です。